高周波刺激による骨芽細胞の代謝にあたえる影響

本論文の要旨は、第50回朝日大学歯学研究科発表会(平成19年12月21日、岐阜)において発表した、本論文の一部は、第50回秋季日本歯周病学会学術大会(平成19年9月22日、東京)において発表した。
右近 一晃

緒   言
 高周波刺激の効果として微小血管の拡張、神経伝達速度の上昇、痛覚閾値の上昇があげられる。1-4) そして現在、臨床現場にてインプラント、急性歯周膿傷術後の疼痛緩和、創傷治癒促進に働くと考えられている 5-8)
また骨細胞に作用し代謝促進すると考えられておりCookらは高周波刺激を犬の抜歯窩に作用させ化骨促進作用があることを報告している。9)またPillaは磁場や超音波が骨の成長と修復に好結果をもたらすと報告している。10)
 近年、竹内によって高周波刺激を口腔内のアフタ性口内炎、口角炎、インプラントの術後疼痛、歯周病治療に臨床応用し良好な結果おさめている。また辺縁性歯周炎によって歯周組織の破壊が重度に起こった部位に初期治療と併用して高周波刺激を併用すると歯槽骨の再生みられる。5-8)
 血管内皮増殖因子(VEGF)は血管新生に重要な因子であり創傷治癒の早期に発現する。VEGFは強力な血管新生因子の一つである。これまでに骨芽細胞や肥大化軟骨細胞などからも産生されることが知られており、VEGFが血管新生促進作用ばかりでなく、骨リモデリングにも関与している可能性が考えられる。10)またVEGFは血管内皮細胞ばかりでなく造血系幹細胞にも作用することが知られており,単球の走化作用があること、またVEGFが培養骨芽細胞の分化を誘導することも報告されている。ヒアルロン酸(HA)は糖鎖成分として細胞外マトリックス代表する組織の構造維持に働くとともに、形態形成や創傷治癒における細胞の増殖や運動を促進すると報告されている。12)
 しかしながら高周波刺激と骨代謝との詳細なメカニズムは未だ明らかになっていない。この研究の目的は高周波刺激の骨芽細胞にあたえる影響を解明することである。
材料と方法
1.
ヒト骨芽細胞株(MG63(Amerikann Type Culture Collection 、Manassas,VA)、マウス骨芽細胞株としてMC3T3−E1細胞を用いた。MG63細胞、MC3T3−E1細胞は、5%CO2,37℃の条件下で、32unit/ml penicillin=G(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO,U.S.A)と60µg/ml  Kanamycin(明治製菓、東京)を含む10%fetalcalf serum(FCS)添加
Dulbecco's modifiede Eagle's medium(DMEM)を用いた。実験には、3〜6代目の細胞を供試した。
 
2.
供試した高周波刺激発生装置
本研究で使用した高周波発生装置は i cure(コスモデンタル社)製を使用した。このチップ上に細胞培養用 Dishをのせ培地中にアースを取り高周波刺激を加えた。 
   
3.
高周波刺激発生装置の設定
各細胞は各ウエルに1×104 個になるように播種し、培養1日後から高周波刺激を加えた。高周波の作用を検討するため7W、15w 30wの各パルスにて刺激を加えた。I cure の周波数は510Khzであり,Long―Wave Diathermy に属する。刺激時間による変化を検討するためまる5分間10分間、15分間で刺激を加えた。また経時的変化を検討するために1日間、2日間、3日間ごとに刺激を加えた。
   
4.
Autoradiographyを用いたLabeled Index 法
細胞代謝はAutoradiography を用いたLabeled Index法により測定した。細胞培養はカバーガラスをdish 上におき,その上で細胞を培養した。細胞がカバーガラスに付着した状態で高周波刺激を加え 3H-Thymidine を添加した。細胞が付着したカバーガラスはスライドガラスに接着させ、細胞表面に感光乳剤をコーテイングした(Dipping法)のち遮光し4℃にて2週間感光させた。その後23℃、10分間現像し定着した。細胞はトルイジンブルーを用いて染色し、その後包埋した。細胞内のGrain数は光学顕微鏡下で観察後、全自動顕微鏡写真装置にて撮影し測定した。100細胞あたりのGrain数をカウントしcount/100cellsにて表した。結果は平均値±標準偏差で表す。統計的なスチユーデントのt検定によって確認した p<0.05を統計的に有意であると判断した。
   
5.
VEGF産生量の定量
VEGF産生量の定量はサンドイッチELISA法によるHuman VEGF ELISA kit(R&D Systems) 及びMouse VEFG ELISA kit(R&D Systems)を使用した。このキットはSandwich Binding Protein Assay 法に基づいたのでマイクロタイタープレートに個相化したVEGF 抗体に培養上清中VE<0.05〈GFを結合させ、さらに酵素標識した第二の抗体を添加すると再度抗原抗体反応が起こりサンドイッチ構造を呈する。測定状件は各試料、スタンダードを各ウエルに加え、2時間室温放置しその後洗浄した。次に酵素標識液を加え30分放置した。30分後反応停止液を加えマイクロプレートリーダー(MPR−A4 東京槽達社、東京)を用いて波長  450nmの吸光度で規格された標準試料をもとに測定値を算出した。結果は平均値であらわす。統計的な差はスチューデントのt検定によって確認した。
P<0.05を統計的に有意であると判断した。
 
6.
HA の定量
各細胞の培養上清中のHAは。ヒアルロン酸ELISAキット(生化学工業、東京)を用いて測定した。すなわちHA量はHAをコーチイングしたマイクロタイタープレートの各ウエルに培養上清を添加し37℃、1時間反応させた。ついで各ウェル0.05%Tween含有PBSを洗浄し、ビオチン標識HABPを加え、37℃、1時間処理した。さらに、各ウエルは0.05%Tween
含有PBSで3回洗浄し、アビシン標識HRPを添加後、遮光し室温30分間発色反応し、マイクロプレートリーダー(MPR-A4 東京槽達社、東京)を用いて主波長492nm、副波長630nmにて吸光度を測定した。標準曲線を用いてHA量を算出し、その活性量はng/mlとして示した。結果は平均値±標準偏差出表す。統計的な差はスチユーデントのt検定によって確認した P<0.05を統計的に有意であると判断した。
 
結   果
1.
照射パルスの差によるGrain数の変化
   照射強さが7w、15w、30wと異なるときMG-63細胞では7wでは変化が見られず15w、30wにてGrain 増加が見られ有意差が認められた。(P<0.05)。対照群は10.0±1count/100cells のGrainがみられ
15wは32.3±3count/100cells、30wは33.4±3count/100cells
Grain増加がみられた。
 MC3T3-E1細胞において対照群と比較すると7wでは有意差はみられなかった。15w、30wでGrainの増加が見られ有意差が認められた(P<0.05).
対照群は10.3±1count/100sellsのGrainがみられ15wは21.6±3count/100sells, 30wでは22.2±3count/100cellsのGrainが見られた。
 
 
  図1MG63細胞のH³−Thymididineの取り込み像
A:非照射群(×200)
B:照射群(×200)
C:照射群の拡大像(×400)

図2MC3T3-E1細胞のH³-Thymiddine の取り込み像
A:非照射群(×200)
B:照射群(×200)
C:照射群の拡大像(×400)
   
2.
供試した高周波刺激発生装置
 本実験条件は30w、2日間照射した
 MG-63細胞に5分間照射した群は対照群と比較し有意差はみとめられなかった。10分間、15分間刺激した群はGrainの大幅な増加が見られ有意差が認められた。(*P<0.05)MG63細胞において
5分間刺激では10.0±1count/100sells,10分間刺激では32.3±2count/100cells
15分間刺激は34.0±2count/100cells
のGrainがみられた。
    
 MC3T3-E1細胞に5分間、10分間、照射した群は対照群と比較すると有意差はみられなかった。15分間刺激した群はわずかにGrainの増加がみられた。(P<0.05)
 MC3T3-E1細胞の5分間刺激では11.0±1count/100cells,
 10 分間刺激では12.0±1count/100cells
 15分間刺激では13.0±1count/100cells
のGrainが認められた。

   
考  察

 現在、臨床現場において高周波電気治療は歯周組織の治癒促進に利用されている。6−8)そしてPalliaは磁場や超音波が骨成長と修復に好結果もたらすと報告し、創傷治癒に働く報告されている。10)Cookらの報告では抜歯窩に高周波を刺激すると術後7日目では高周波刺激を加えなかったグループと比較すると有意差は見られず、14日目に抜歯窩の新生骨の著名な増加が見られている。9)この現象は高周波刺激により骨芽細胞の代謝が活性化されたことが考えられる。本研究においてヒトおよびマウスの骨芽細胞に高周波刺激を加えると細胞代謝活性の亢進が見られた。弱いパルスでは効果は見られなかったものの15w以上のパルスではGrain の増加が見られた。高周波の照射条件は5分間より10,15分間刺激したほうが細胞代謝活性の亢進が見られたまた24時間ごとに高周波刺激を加えると細胞代謝活性の亢進が見られた。これらの結果より刺激をあたえると24時間では代謝活性の亢進は起こらず、48時間あるいは72時間で代謝活性の亢進を確認した。この現象は刺激をあたえ代謝活性が起こるにはタイムラグがあると考えられる。また本研究において骨芽細胞のVEGF,HA,の産生量について検討した。
 骨組織のリモデリングの過程において、血管新生と骨組織の代謝は密接に関連している。
 また組織学的に血管の侵入と骨芽細胞の出現が同時期に認められる、時を同じくして密接に関連していることが知られている。
15)さらに、生理学的な骨形態形成過程のVEGFは強力な血管新生因子であることが知られており血管内皮増殖因子(VEGF)は強力な血管新生因子の一つである。これまでに骨芽細胞や肥大化軟骨細胞などからも産生されることが知られており、VEGFが血管新生促進作用ばかりでなく、骨リモデリングにも関与している可能性が考えられる。11)またVEGFは血管内皮細胞ばかりでなく、造血系幹細胞にも作用することが知られており単球の走化作用がある。17)
  高周波によって刺激された骨芽細胞は早期にVEGFを産生し血管形成に関与すると考えられたが対照群と比較するとわずかに増加しただけであった。組織が再生する際、血管新生おこり治癒に向かっていくことが知られているが高周波刺激では顕著な差はみられなかった。
  HAは受精、創傷治癒、胎盤形成や脈管形成を含む組織の形態形成、癌の浸潤などの細胞移動において産生がみられ、細胞の増殖、移動、分化において重要であることが知られている。
18−20)HAは分子量およそ100万の糖鎖からなり、その糖鎖が水溶液中で複雑に絡み合い多量の水分などを保持する複合体として存在する。また、HAは細胞膜表面にあるHA受容体を介して、細胞内移動のためのシグナルを伝達する。HA受容体における構造と機能に関する研究において、骨芽細胞へ移動シグナルを伝達するのはreseptor for HA-mediated motility(RHAMM)であることが明らかになっている。21)
 RHAMMはある種の細胞膜貫通型タンパクと結合し細胞表面分布して、細胞外HAと特異的に反応した結果プロテインキナーゼの活性化を惹起し、一過性の細胞移動を開始すると考えられる。またHA の骨芽細胞における作用としてオステオカルシンの発現が亢進し、アルカリフォス―ゼ活性がおこることが知られている。
22)これらの所見はHAが合成されることにより骨芽細胞を刺激し骨が再生しやすい環境を形成することを示唆している。本研究において高周波刺激によりヒトおよびマウス骨芽細胞よりHAの産生量の増加が認められた。

 
結   論
本研究は、高周波刺激によるマウス骨芽細胞およびヒト骨芽細胞の代謝にあたえる影響について検討したその結果、以下のとおりである。すなわち
   
1.
照射パルスによる細胞の代謝活性変化 
  MC3T3−E1 細胞では照射強さが7wで有意差みられない。15w、30wではわずかにGrain の 増加がみられた。 MG-63細胞では7wで有意差みられず15w30wにてGrainの増加がみられた。
 
2.
照射時間による変化。
MC3T3-E1細胞に5分間、10分間15分間照射群の有意差はみられない。
MG-63細胞に5分間照射した群に有意差はみられない。10分間、15分間刺激した群は大幅なGrain増加がみられた。
   
3.
24時間毎に3日間刺激を加えた時の細胞の代謝活性変化
MC3T3−E1細胞は1日目、2日目では有意差はみられず、3日目に大幅なGrain の増加がみられた。
MG-63細胞の1日目の有意差はみられず、2日目、3日目で大幅なGrainの増加がみられた。
   
4.
高周波刺激における培養上清中のVEGF産生量
高周波刺激を加えると、MC3T3-E1細胞に有意差はみられなかった、MG-63細胞において3日目の倍地中VEGF濃度はわずかに増加した。
   
5.
高周波刺激における培養上清中のHA 産生量
高周波刺激を加えるとMC3T3-E1細胞、MG-63細胞において経時的に培養上清中HA濃度は増加した。これらの結果から、マウスおよびヒト骨芽細胞に高周波を刺激するとHA産生量が増加し細胞代謝活性が亢進することを明らかにした。