日本歯科救急医療研究会誌     VOL.27

口腔疾患における高周波電気治療の効果に関する検討

宝塚市国民健康保険診療所  歯科
駒井 正

はじめに

口腔疾患のなかで口腔粘膜疾患や顎関節症、舌痛症、口腔乾燥症は難治性であり、その治療法が画期的進展をみることはなかった。歯科臨床においては補綴や修復についての材料開発に力が注がれ、口腔疾患の内科的治療については旧来のままの方法が踏襲されて来たといっても過言ではない。そもそも、外科治療が第一選択であるような医療は問題であり、可能な限り患者の苦痛を伴なわない治療方法追求されるべきであることは至極当然のことと言える。歯科医療においての難治性疾患をどのように治療し、成果をあげていくかは歯科医師の大きな課題であり、そのことを長期にわたって研究する歯科医師の層を厚くしていくことが求められている。
 このような状況の中で、今、急速に普及しつつあるのが高周波電気治療(ジアテルミー)であり、主に開業歯科医師によって活用され、さまざまな歯科疾患において効果が確認されている。等診療所においても平成17年2月よりコスモデンタル社製CM-009Eを使用して成果をあげるようになった。今回はさらに症例を重ね、高周波電気治療をどのように活用するのかについて検討を加えた。
症例の概要

対象は平成17年7月から平成18年5月までに等診療所にて高周波電気治療を行った45例で表1、表2にその概要を示した。男性10例、女性35例、年齢は4歳から80歳までで平均年齢47歳であった。口内炎、顎関節症、舌痛症,歯牙知覚過敏、扁平苔癬,白板症、口腔乾燥症に対して高周波電気治療器(コスモデンタル社製CM−009E)で非接触による照射治療を行った。
前回の臨床報告では歯周疾患を含めた歯科疾患全般を対象に105例の症例について本療法の口腔疾患への適用の効果について報告したが、今回は非接触法による口腔粘膜疾患に対する治療効果に絞って検討を加えてみたい。

表―1  症例の概要(1)
患者数(男性・女性) 45(11.34)
年齢 4〜80歳
MEAN±SD 47,2±20,0
表―2 症例の概要(2)
口内炎
17
顎関節症
14
舌痛症
歯牙知覚過敏
扁平苔癬
白板症
口腔乾燥症

症例の検討

(1)口内炎
  症例数は17例で、男性4例、女性13例、年齢4歳〜64歳(平均年齢±SD:41,4±20.0)であった。症例はすべてアフタ性口内炎で、アズノールガーグルかデンターグルFによる含嗽を併用し、高周波非接触Aで13分間、ブルーチップにて12回照射した。口内炎の疼痛は1回照射で消失した。カンジタ性口内炎やヘルペス性口内炎はイエローチップによる照射となるが、第一選択としては抗真菌薬や抗ウイルス薬の処方であり、高周波は補助的役割を果たす程度である。したがって、口内炎に対する高周波の適用はアフタ性口内炎にほぼ限定される。

(2)顎関節症
症例数は14例で、男性4例、女性10例、年齢15歳〜68歳(平均年齢
±SD:42,4±16,1)であった。開口障害、顎関節痛、クリック音を主症状する顎関節症は大半の症例が何らかのストレスにより発生する咀嚼筋のバランスの乱れとそれに伴う咬合異常を原因としている。したがって、その治療は咬合挙上板の装着と咬合調整,骨格筋弛緩薬の内服が一般的であるがその治療効果はクリアなものではない。ここで高周波電気治療を導入すると今までにない効果を得ることができる。
 当診療所では顎関節のX線検査、顎模型の制作と咬合調整、高周波電気の照射(非接触3〜5分イエローチップ使用)を原則として3症状の消失という臨床効果を得ている。高周波電気の照射は5回をめどに行い、必要に応じて回数を増やす。以下に難症例を提示してその効果を紹介する。
(症例1)KS、34歳、女性、両側顎関節症
 6年前より某大学病院にてスプリント、投薬、顎関節腔内薬剤注入の治療を受けていたが、開口障害と開口時クリック音が治癒せず、不快感が継続するため受診。左上顎第一大臼歯の咬合調整と高周波電気の照射(非接触A)を3分ずつ、8回実施、治癒した。照射は5回までは週1〜2回、後は月1回行った。

(症例2)KN 63歳、女性、右顎関節症、右耳下腺炎
 3年前より某大学病院にてスプリント、投薬治療を受けていたが、開口障害/顎関節部圧痛と周辺の不快感が継続するため受診。右上第2小臼歯と第1大臼歯のインレーとクラウンの咬合と臨在歯とのコンタクト不良のため再製。高周波電気の照射(非接触A)を5分ずつ8回実施した。照射は週2回ペースで行い、6回目よりスプリントを2週間併用し治癒。不快感については耳下腺部に強く感じるため血液検査を行いサイトメガロウイルス抗体価64倍であったため、バルトレックス1G/日を5日間内服してもらったところ不快感は消失した。 

(症例3) NH 33歳女性 左顎関節症
 12年前顎関節症と診断され、某開業医院にて歯列矯正治療を受けたが改善せず、紹介された某病院口腔外科にて埋伏智歯ヲすべて抜歯しスプリント・投薬・咀嚼筋トレーニング用器具・顎関節腔内注射の治療を数年間継続してきたが症状の改善が見られず受診。開口時下顎の左偏位と激しいクリック音がみられた。左大臼歯の咬合調整と週2回の高周波電気照射(非接触A)を5分間、週2回のペースで10回実施。開口時の下顎偏位はなくなり、スムーズに開口できるようになり、クリック音もほとんど聞き取れないほどに改善した。

(症例4) YK 59歳 男性 右顎関節炎 両側顎関節症
 花粉症で鼻づまりがあり耳に痛みがあったが突然右側頭部に咀嚼に伴う激痛が出現したため受診。右顎関節部の圧痛・クリック音・開口障害・咀嚼障害を認めた。耳鏡検査で外耳道と鼓膜に異常を認めず、顎関節炎と判断しクラリス,パナンの内服治療と高周波電気治療(非接触A)を行った。照射は3分ずつ7回、3日1回のペースで行い治癒した。

(3)舌痛症
 症例数は8例で、全員女性、年齢32〜80歳平均年齢±SD:65,1±18,6)であった。舌痛症は歯科の特定疾患として取り扱われている難治性疾患で、その原因は多様であるので高周波電気の照射で解決する訳ではないが、疼痛を緩和する効果は大きい。

 1.臨床検査
  • ストマスタットによるカンジタ菌検査
  • 血液検査による貧血の検査
  • 血液検査によるヘルペスウイルスの抗体価のチエック
  • 血液検査による血清亜鉛のチエック
 2. 治療方針
  • 舌苔の除去の指導→ファンキゾンシロップまたはアズノールガーグルで専用スポンジによる舌苔除去を続けてもらう。
  • 高周波電気照射を非接触Aで35分、週2回程度続ける
  • プロマック1包/日/ビタメジン2cap/日の内服
  • ヘルペスウイルス抗体価で異常が確認できればバルトレックス1g/日の内服を35日間
(症例1) KM 65歳 女性 カンジタ性舌炎による舌痛症
 舌痛のため不眠となり受診。ストマスタット陽性のためアズノールガーグルによる舌苔除去を指導し、血液検査にて血清亜鉛67μg/dlのためプロマック1包/日の内服、高周波電気の照射(非接触A)を週1回、3分間ずつ実施し約3ヶ月で治癒した。

(症例2) TN 78歳、カンジタ性舌炎とHSV再燃による舌痛症
 舌痛による不眠のため受診。ストマスタット陽性のためファンキゾンシロップとアズノールガーグルによる舌苔除去を交互に4ヶ月間実施。血液検査にて血清亜鉛61μg・dlのためプロマックを4ヶ月間内服。ビタメジン2cup/日の内服を2ヶ月間継続舌。高周波電気治療は3〜5分間,舌尖部に週1回のペースで行った。3ヶ月目になっても舌痛症状が完全に治癒しないために、血液検査にてヘルペスウイルス抗体価を調べたところ、HSV抗体価32倍、VZV抗体価8倍であったのでバルトレックス1g/日を5日間、2クール内服したところ舌痛症状が消失した。治療開始より4ヶ月経過し治癒した。

(4) 扁平苔癬
口腔粘膜に現れる扁平苔癬歯原因不明の難治性疾患で。ステロイド剤の塗布または内服による治療が一般的であるが目立った効果を得るには至っていない。この30年間、治療方法に大きな進展を見ない疾患であり、歯科界を上げて原因の究明と治療法の確立に努力するべきであろう。当診療所では病理組織検査にて確定診断と悪性所見のないことを確認後、高周波電気治療(非接触A、5分間照射)の継続と手術による初発病巣の除去、金属充填物や
補綴物の除去とセラミックスへの変更、アズノールガーグ板ルによる口ゆすぎかアズノール軟膏の塗布、半夏潟心湯エキスの内服を柱とした治療法で対応し効果をあげている。また、亜鉛の補充も重要でプロマックの内服を継続する。

(症例1) NM 32歳 男性 舌・頬粘膜紅色扁平苔癬
 左舌側縁部・左右頬粘膜部・左上顎小臼歯部ならびに右下顎小臼歯部歯槽粘膜部・左右下顎智歯周囲歯肉部に白線と発赤を伴う扁平苔癬があり、某病院歯科口腔外科にて経過観察していたが改善せず当科受診。その病院の病理検査では口腔外科の診断に対し「白板症」と診断しており、治療方針が立てにくい状況あったようで、再度発赤の顕著な舌側縁部より組織片を採取して病理検査行った結果、「紅色扁平苔癬で悪性所見なし」との診断を得た。
 血液検査所見は表3に示した。カンジタ菌検査はストマスタット陰性であった。高周波電気の照射は(非接触A)を病巣全体に3分ずつ週1回のペースで行い、アズノールガーグルによる口ゆすぎを継続したところ約1か月で全体の発赤が軽減し智歯周囲と歯槽粘膜部の病巣の縮小が観察された。同時に金属物を除去し右下第2小臼歯・右上第一大臼歯・右下第2大臼歯レジン充填、左上智歯抜歯を行った。2ヶ月目以降も高周波治療を継続し、半夏潟心湯エキスの内服を月10日のクールで7ヶ月間継続した。3ヶ月目には右頬粘膜部の病巣が縮小したので病理組織検査を兼ねて智歯周囲の歯肉までの摘出手術を行った。4ヶ月目には右頬粘膜部の病巣がほぼ消失し、舌部の病巣も大幅に縮小した。治癒を促進させるためにプロマックの内服による亜鉛の補充を開始した。6ヶ月めには病巣ほぼ消失し、10ヶ月目以降も経過良好である。高周波電気治療は6ヶ月で終了し、現在はアズノールガーグルによる口ゆすぎとプロマックによる亜鉛の補充を継続している。

表3液検査所見
亜鉛―S 78oooμg/dl
CRP定性 (−)
CH−50 33,0U/ml
C3 100mg/dl
C4 22mg/dl
HCV抗体 (−)
HSV抗体価 16倍
VZV抗体価 4倍未満
(5) 白板症と口腔乾燥症
(症例1) YS 61歳 女性 左右頬粘膜白板症
 3ヶ月前より左上上顎犬歯から第一大臼歯までの頬粘膜と歯肉ならびに左下第一小臼歯から第2大臼歯までの頬粘膜と歯肉に及ぶ白板病変に気づき受診。病変は均一型で右上病変にて病理組織検査行い、「白版症で悪性所見なし」との診断を得た。
 右上顎の病変に対して高周波電気の照射(非接触A)を5分間、週1回のペースで実施したところ、約1ヶ月で大きさが2/3程度に縮小し、約2ヶ月で1/3程度になったので手術による除去を行う予定である。下の病変については高周波電気の照射をせずに受診の1ヵ月後に全摘出手術を行った。

 (症例2) AK 78歳 女性 口腔乾燥症
 1年ほど前より口唇が乾燥し、口渇感を覚えるようになり受診。左右耳下腺開口部は確認が困難で唾液の排出ほとんど確認できない状態であった。アズノール軟膏の口唇への塗布と耳下腺マッサージ、ならびに高周波電気の耳下腺への照射(非接触A)を5分間、週1回のペースで2ヶ月間実施、現在も継続中である。月1回のペースで21ゲージのエラスター針を耳下腺開口部より導管内に挿入し、耳下腺の洗浄と導管の拡大を行い、唾液分泌の効果を助長している。治療開始より3ヶ月が経過したころより口渇感がなくなり、不快症状も軽減している。

おわりに
 
充填と補綴による修復と薬剤による治療が主体である歯科医療から口腔衛生による予防への転換へと変貌しつつある歯科医療は圧倒的多数の歯科医師に受け入れられている変革である。この流れの中で「再生」という新しい医療の考え方が提示され、歯科においては「インプラント」として普及しつつある。しかしながら、この医療の根本的な欠陥は、人工物が高齢化という不可避的な変化の中でいずれ人体から除去しなければならない局面が生まれるということを想定していなということであろう。高齢化がもたらす人体の変化は免疫力の低下にとどまらず、臓器の機能低下や出血傾向に見られるような人為的変化を伴うということであり、「インプラント」の除去を著しく困難なものにしてしまう状況が生じるということである。有病者の歯科治療でさえ対応に苦慮している歯科医師にとってこの事態を克服するためには全身医学的知識と技術の習得が不可欠な課題として存在している。
もう一つの問題点は歯科特定疾患に見られる難治性疾患に対する研究が遅れており、数十年間なんら変わらない治療方法が踏襲されてきたということである。このことは「再生医療」という流れが結局は補綴方法の変革という枠から一歩も出ていないという現実となっているのである。
以上のような変革の過程で登場したのが「高周波電気治療」であり、次第に歯科医師の注目得るようになった。多くの臨床例が蓄積されつつあるが、この治療方法のスタンスは臨床検査による原因の究明それに対する薬物療法や手術を支える「組織再生」的な補助療法であり、難治性疾患治癒への可能性を高める療法ということであろう。竹内による基礎的臨床研究に基づいて各臨床医が経験を蓄積していくことが必要である。最後に高周波電気治療についての当診療所での経験をまとめると以下のようになった。これからも難治性疾患対する取り組みを進めていきたいと考えている。
1) 口内炎は原因が何であれ非接触照射の効果が大きい。
2) 顎関節症は顎関節炎との鑑別をしたうえで非接触照射を第一選択とすべきである。
3) 扁平苔癬や白板症は悪性所見のないことを確認したうえで非接触照射を行うと、効果が大きいが薬物療法と手術の補助的役割として活用する。
4) 舌痛症は非接触照射により疼痛の軽減が得やすい。舌苔の除去を基本に亜鉛の補充、ヘルペスウイルス感染の再燃も考慮に入れる。
5) 亜鉛の補充は味覚障害にとどまらず、舌痛症や扁平苔癬の治療にも活用するべきである。
 
参考文献
1) 駒井 正 :口腔疾患への高周波治療の展望
   歯科救急医療 26(1):7−9, 2005
2) 駒井 正、 前中みつる、芝辻美里、倉本真紀子、:口腔扁平苔癬の治療方針、兵庫歯科学院雑誌 20(1):40−50、1997
3) 竹内義和:歯科とジアテルミー(高周波電気治療)―いま話題の内科的ジアテルミーについて。デンタルダイアモンド 31(5)131−141、 2006